今回は、現在開催中の特別展「歌を詠む武士」にあわせて、和歌に関するこぼれ話をご紹介します。
平安時代、初の勅撰和歌集(天皇の命で編さんされた和歌集)として成立した『古今和歌集』には、仮名書の序文があります。
このなかで、和歌について次のように述べられています。
「力を入れずに天地を動かし、目に見えない鬼神の心をうって感動させ、男女の仲を和らげ、勇ましいもののふの心をも慰めるのは歌である」
また、鎌倉時代に成立した『沙石集』には、「世の常の言葉であっても、和歌に用いて思いを述べれば必ず心を動かす」「神々の多くは歌によって心を動かされ、人の願いを叶える」「神仏が和歌を用いるのは、これが真言であるからこそである」などと書かれています。
これらの記述から、当時の人々が、歌には不思議なチカラがあり、心を込めて歌を詠めば、その願いは神仏に聞き届けられ、さまざまな奇跡が起きると信じていたことがわかります。
和歌は、文芸の一つであると同時に、神仏と人々をつなぐ架け橋でもあったのです。
現在、特別展で展示している室町幕府初代将軍足利尊氏の和歌(忌宮神社蔵、重要文化財)は、長門二宮(忌宮神社)に参詣した足利尊氏が、その後勝利を得たことを、長門二宮の加護によるものと信じ、感謝の意味を込めて奉納したものです。
武将たちは、心を込めて和歌を詠めば、神仏に思いが通じ、武運長久がもたらされると信じていたのでしょう。
特別展では、和歌によって領地を手に入れたり、官位が昇進したりした武士たちのエピソードをご紹介しています。
ぜひ、歴史博物館で歌にまつわる武士たちのさまざまなエピソードにふれてみてください。